「代理店にたくさん売ってもらいたい」──これはチャネル戦略における企業側の自然な期待です。
ですが、その“売ってくれる”という行為の中身は、ここ数年で大きく変わってきてはいないでしょうか。

単に売上を上げること。それ自体はもちろん重要です。

けれど企業は今、その売上が「どのように生まれ、どのように続くのか」に対して、以前よりもずっと敏感になっています。
言い換えれば、企業がパートナーに求めているのは「たくさん売ること」だけでなく、
成果が継続する仕組みを共につくり、その関係性を健全に育てていく振る舞いなのではないでしょうか。

“売ってくれる”ことの意味が変わってきた

以前のチャネル戦略では、パートナーに期待することは比較的シンプルでした。

  • 製品を扱ってくれること
  • 顧客に展開してくれること
  • 企業の代わりに営業活動を担ってくれること

つまり、企業の手足として販路を広げてくれる存在。
かつては、それだけでも十分に機能していたのです。

しかし現在は状況が大きく変わりました。

  • 製品やサービスが複雑化し、正確に理解・説明できるスキルが求められる
  • サブスクリプション型などでは、「売って終わり」ではなく「使い続けてもらう」ことが売上に直結する
  • 顧客の評価基準も、導入したかどうかではなく、成果が出ているかどうかに変化している

つまり、単に売るだけでは済まされない構造になってきているのです。
企業がパートナーに期待する役割もまた、「拡販」から「共創」へと進化しつつあります。

企業がパートナーに望んでいること

今、企業がパートナーに対して理想として描いている姿には、次のような特徴が見られます。

  • 製品やサービスの価値を正しく伝えてくれる
  • 顧客の課題に応じて柔軟に提案してくれる
  • 導入後のフォローや定着支援も担ってくれる
  • 本部の意図や戦略を理解し、現場に反映してくれる
  • 顧客の成功に向けて、能動的に行動してくれる

これは、従来の「売ってくれる人」とは明らかに異なる像です。

企業が望んでいるのは、単なる代理販売ではなく、
自社と連携しながら、継続的な成果を生み出す共働のパートナーです。

そうした関係性を前提としたチャネルこそが、企業の長期的な成長を支える基盤になるという発想です。

なぜ理想と現実の間にギャップが生まれるのか

しかし現実には、このような理想像に応えられるパートナーは限られています。

  • 提案や運用に必要な知識が不足している
  • 顧客との接点が薄く、導入後の状況が見えない
  • 本部からの支援や意図がうまく伝わっていない
  • 過去のやり方に固執し、新しい取り組みへの適応が進まない

こうしたギャップは、パートナーの意欲や誠実さの問題とは限りません。
多くの場合、「どう行動すればよいかが具体的に設計されていない」ことが原因になっています。

つまり、企業の側に「こうしてほしい」という期待はあるものの、
その期待を伝える仕組み、理解を促す手段、継続的に実行してもらう仕掛けが欠けているのです。

期待と現実のギャップから“支援の仕事”が生まれる

このギャップは、時間が経てば自然と埋まるようなものではありません。
だからこそ、そこに「仕事」が発生します。

  • どうすれば、パートナーに適切な情報が届くのか
  • どうすれば、本部の意図が提案現場に反映されるのか
  • どうすれば、施策の活用が定着するのか
  • どうすれば、顧客との接点が持続的に育まれるのか

こうした問いに向き合いながら、パートナーの振る舞いを支える仕組みを設計すること。
それが、現在のチャネル運営における「支援の仕事」の本質です。

単に「資料を配る」「研修を案内する」といった一時的なタスクではなく、
企業が描く理想的なパートナー像に近づけるための行動設計そのものだと言えます。

昔は任せればよかった。今は“設計”しなければ動かない

ひと昔前であれば、パートナーに任せておくだけで、ある程度の売上は上がっていました。

  • 製品の差別化が明確だった
  • 顧客の期待値も高くなかった
  • 販売スタイルが定型的だった

しかし今は、製品も顧客も環境もすべてが複雑化しています。
「任せておけば動いてくれる」関係性は、簡単には成立しません。

必要なのは、パートナーを責めることではなく、
「どう動けば成果につながるのか」を明確にし、共有し、継続可能な行動モデルをともに設計することです。

おわりに──支援とは、“理想と現実の間”で発生する構造的な仕事である

「パートナーは売ってくれるだけで十分か?」
──この問いに対して、「できればそれで十分であってほしい」という気持ちは、どの企業にもあるはずです。
しかし現実には、その“十分”の中身が大きく変わってきています。
売るだけでなく、価値を正しく伝え、顧客の成果を共につくり、
そして継続的に成果が生まれる構造を育てていける関係性が必要とされています。
そのようなパートナーとの協働を成立させるためには、
支援という名のもとに、振る舞いを補い、行動を支える仕組みが求められます。
そしてそれは、個人の経験や気配りに頼るものではなく、
組織として意図的に設計されるべき“構造的な仕事”なのです。
どんな支援が必要か。どんな役割が生まれるのか。どのような仕組みで循環させるべきか。
その答えは、「売ってくれるだけで十分か?」という問いを深く考えた先にしか見えてきません。