前回の記事では、なぜ北米企業がパートナーセールスにおける支援活動を明確にKPI化しているのかを、文化的・構造的観点から整理しました。

今回はもう一歩踏み込み、実際にその支援を担う「チャネルマネージャー」「パートナーサクセスマネージャー(PSM)」がどんな業務を担い、どのように評価されているのかを、実務視点で描いていきます。

米国における「パートナー支援担当」は、営業でもサポートでもない

まず、混同されがちですが、「チャネルマネージャー」や「パートナーサクセスマネージャー(PSM)」は営業職ではありません。

また、代理店の一次窓口ではあるものの、いわゆる「サポート担当」や「カスタマーサクセス」とも異なります。

彼らの役割は一言でいえば:

「代理店が自律的に売上を伸ばせる状態を設計・維持すること」

売上は追いますが、商談はしません。
ナレッジは届けますが、教えきりません。
関係性は築きますが、担当制にはしません。

あくまで「仕組み」と「介入」の両面で、パートナーが活躍できる土壌を整えるのが彼らの役割です。

担当者の1日は、意外と“現場から離れている”

あるSaaS企業のチャネルマネージャー(米国本社)の1日を見てみましょう。

8:30 AM - ダッシュボード確認

  • トレーニング進捗/資料閲覧数/ログイン頻度などをPRMでチェック
  • サイレントパートナー(非アクティブ)を抽出し、アラート対象を洗い出し

9:30 AM – 部門定例会議(Sales/Marketing/Supportとの連携)

  • 各部門とパートナー状況の共有
  • 支援コンテンツや資料の効果報告、改善依頼
  • パートナープログラム改訂やアライメント調整

11:00 AM – 支援パッケージの設計

  • 新製品の販売を促進するための「支援テンプレート(動画+FAQ+提案書)」を構成
  • トップパートナーの使い方を参考にしながら汎用化

1:00 PM – アカウントレビュー(中〜下位パートナー)

  • 過去3か月の行動ログと成果データを比較
  • 「どの支援が足りていないか/未読か/未完了か」を洗い出す
  • パートナー自身にもフィードバック+アクションを提案

3:00 PM – トップパートナーとの定例フォロー

  • 勝ち筋となる事例をヒアリング
  • PRM内でナレッジとして展開するための要素を抽出(使用資料・導入プロセス・競合対策など)

5:00 PM – KPIレビューと内部レポート更新

  • トレーニング完了率・支援消化率・提案ツール利用率などをもとに、週次KPIを報告
  • 予算配分や支援施策見直しのインプットとして社内共有

彼らは「支援ログ」を読んで、動く

北米企業のPSMの特徴は、「現場で起きていること」を主観ではなく**“支援ログとして読む**ことにあります。

たとえば:

  • 資料閲覧数が0 → 「まず届いていない」と判断
  • トレーニング完了者が全員マーケ職営業部に情報が展開されていないと判断
  • 支援ポータルに3週間アクセスがないナーチャリングのシナリオに移行

このように、すべての気づきの根拠が行動ログベースであり、それをもとに施策を組み立てる点が、従来の関係管理型チャネルマネージャーとは大きく異なります。

KPIは「支援の届け先」と「行動の変化」を見る

では、実際にどんな指標で彼らの活動が評価されているのでしょうか?

以下は実際に活用されているKPI例です:

KPI指標カテゴリ

具体的な項目例

支援活用の反応

提案書テンプレのダウンロード数、FAQ閲覧回数、AIチャット活用頻度

支援⇔成果の相関

トレーニング完了パートナーの商談化率、資料閲覧×受注単価の分布

支援⇔成果の相関

トレーニング完了パートナーの商談化率、資料閲覧×受注単価の分布

支援の偏り検出

閲覧ゼロのパートナー数、低スコアパートナー数の推移

これらを週次・月次でレビューし、「どこにどの支援が届いていないか」「成果に結びついているのは何か」を定量で語れるようにしています。

おわりに──支援を“主観”ではなく“設計可能な構造”として扱う

日本の多くの組織では、「支援担当者」は丁寧な人”“気が利く人と評価されがちです。
ですが、北米では「成果の出る支援とは何か」をログとKPIで定義し、
それを再現し、スケールさせることが支援担当者の役割と捉えられています。

つまり、「届けて、動いてもらう」までを設計する。
そして、それが届いたかどうか・動いたかどうかをログで判断し、介入する。

これが、北米型パートナー支援担当の「支援=戦略的業務」という在り方です。